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2018年5月13日

[特別寄稿]山野草の盗掘被害について|エバーグリーン

はじめまして。エバーグリーン植物Q&Aの回答を担当している、造園家で樹木医の佐々木知幸と申します。今回はエバーグリーンポストをご覧のみなさまにぜひお伝えしたいことがあり、特別に寄稿させていただきます。

 

はじめに:生態系のバランスを崩さないために

普段みなさんが見たり触れたりしているさまざまな植物は、人間が人為的に植えたものと、自然に生えているものとに大別されます。今回はおもに後者、「自然に生えているもの」のお話をいたします。

よく、「自然を大切に」とか「森を大切に」と言いますが、なぜ大切なのでしょうか? 真っ先に思いつくのが“酸素を作ってくれるから”という理由でしょう。緑がある場所に行くとこころが安らいだり、木のなかには家や建物を建てる材料になったりと、自然はさまざまな恩恵をもたらしてくれます。その一方で、それらすべてが役に立つとは思えませんから、別に緑の恵みを与えてくれるなら全部同じ木でもいいんじゃないか? というお考えもあるでしょう。しかし、自然とはその場に暮らすあらゆる生き物がお互いに関係しあっている複雑なシステムです(生態系といいます)。

生態系は、布の織り目のようにどこかが欠けるとほつれてしまいます。私たちが自然の恩恵を持続的に受けるためには、なるべくそのシステムが安定している必要があります。ですから、目の前の必要そうな生き物・植物だけを残してほかを排除してしまうと、全体の安定が崩れ、結局はすべてを失うという結果になりかねません。

ましてや複雑な生態系のシステムは、破壊されると人為的に再生させることが極めて困難です。それを、人間側の都合のみで破壊するということは、道義的な罪というだけでなく、複雑な世界であるゆえに「知らないうちに恩恵を被っていたかもしれない」ものを失うことになります。これは、今現在の損失であると同時に未来への損失でもあるのです。

 

「1本くらい」の盗掘が取り返しのつかない結果に

さて、そういう自然は人為によってさまざまな形で失われます。もっとも規模が大きく、影響も大きいのはニュータウン開発、工場開発、基地建設などの大型開発です。これは広い範囲の自然が丸ごとなくなるという事態ですから、生態系への影響は避けられません。開発は避けたい事態ではありますが、下り坂の時代に入り、日本では開発そのものは下火になりつつありますから、徐々に自然が再生される可能性も大いにあります。一方で、とくに都市近郊では、ほとんどの山野が開発され、自然は断片的にしか残っていない状態が生じています。また、たくさんあるように見える森も林業の衰退によって荒れており、植物をはじめ生き物の多様性が失われている場所も多々見受けます。

そんな中で、スケールは小さいけれど断片的になった自然への脅威となるのが、不正な植物の掘り取り行為=「盗掘」です。もしも、日本の大半が豊かでいくらでも潤沢に野草があるなら、確かに1本掘り取るくらいいいじゃないかという考えもあるでしょう。けれども実際は、日本の自然は分断され劣化が起こっている場所も多くなっています。そんな中で「1本ぐらい」と残された植物を掘り取っていたら、すぐさまは影響がないように見えても、将来にわたって静かに自然は壊れていってしまいます。

たとえば、この写真はミノコバイモという日本海側に多い野草ですが、翌日にはこうして穴が残るのみになっていました。

写真提供:Izumi Chikaraishiさん

写真提供:Izumi Chikaraishiさん

写真提供:Izumi Chikaraishiさん

写真提供:Izumi Chikaraishiさん

 

オークション/フリマサイトでの山採り売買で犯罪に加担している可能性も

さらに、商業的な盗掘はいまだに行われています。かつて、エビネなどランの価格が高騰した際には、山全部のエビネをすべて掘り尽くされるということが横行し、壊滅的な打撃がありました。そうしたブームは去りましたが、現在ではヤフオク!やメルカリなどの勃興により、当時盗掘をおこなったような業者ではなく、個人やそれに近い人々が大量に盗掘を行い売りさばくということが起こっています。最近では埼玉県のイチリンソウの自生地が破壊されたというニュースが記憶に新しいところです。

野草には、園芸植物にはない楚々とした魅力がありますが、一方で自然の生態系のバランスに乗ることで初めて生きられるものも少なくありません。たとえばキンランというランは、地中で樹木と共生している菌に依存して生きています。これもよく盗掘されるのですが、絶対に枯れるでしょう。切り離された単体ではなく、生態系全体として生きている植物なのです。

写真提供:森昭彦さん

写真提供:森昭彦さん

 

野草を楽しみたいのであれば、山野草の生産者が長年にわたり栽培しやすいよう(しかも、見た目は楚々としたまま)改良した流通品を購入するのが一番賢い方法です。オークションやフリマサイトで山採りを入手しても、場合によっては自然の破壊(および、窃盗罪という犯罪)に加担することにもなりかねず、良いことは何ひとつないのです。

 

山野草のため、場所が特定できる記載をしないでください

しかし、残念ながらそうした「市場」がある以上は、盗掘は容易になくなりません。小さな犯罪ですから、警察が取り締まるということもなかなか難しいところです。

そこでぜひともお願いしたいのは「野草をどこで見た」「どこで撮影した」という詳細な場所の情報を極力ネットに載せないでいただきたいということです。

特に登山をされる方は、「どこどこ山」「なになに尾根」といった詳細な地名をブログ等に書かれることが多いため大変危惧しています。その植物をほしいと思ったら検索さえすれば場所が分かってしまうわけですから……。

エバーグリーン植物Q&Aにおいても、そのほうが名前の特定に繋がりやすいという判断でか質問する際に詳細な場所を書かれることがまれにありますが、こちらもぜひともおやめいただきたいと思います。

場所の話というのは話の糸口にもなり、交流のためにはとても有効ですから、その話をされたい気持ちはよく分かるのですが、植物の種類によってはそれが元で絶滅したり、その地域で消滅したりということが起こり得ます。

 

自然の生態系を守りつつ、みなさんが草木花の素晴らしさを感じてもらえるようお手伝いしていきたいと考えています。どうかみなさんのご理解とご協力を切にお願いいたします。

 

佐々木知幸


写真提供:Izumi Chikaraishiさん